ロードバイクのディスクブレーキにおける油圧機構の解説

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油圧ディスクブレーキのメンテナンス

まずはこちらの You Tube 動画を見ていただきたい。

サイクルメンテナンスの飯倉さんのディスクブレーキの油圧回路に関する動画です。

ロードディスクブレーキ やばいってばよ!

飯倉さんはメンテナンス専門のメカなので非常に詳しく、私も参考にさせていただいたり『だよね』って思うこともたくさんあります。

今回の動画は、油圧機構に関する考察で、少し私とは意見が違うので記事にしました。

考え方の違いなので大体は間違ってはいない

あらかじめお断りしておきますが、飯倉さんの考えが間違ってると言うことではありません。

同意する部分もたくさんあるんですが、一部私とは考えが違ってるだけです。

決して批判してるわけではないのでご理解ください。

油圧の仕組みとは

ふだん油圧に触れない方にはなじみがないと思いますが、理科や物理で習う『パスカルの原理』が油圧機構そのものです。

パスカルの原理とは

密閉容器中の流体はその容器の形に関係なくある一点に受けた単位面積あたりの圧力をそのままの強さで流体のほかのすべての部分に伝える』ウイキペディアから引用

この原理により小さな力(油圧)を大きな力(油圧)に変えることができます。
つまり倍力装置です。

たとえば、密閉された直径1センチの筒に入った液体から10倍の直径10センチの筒に入った液体に10の力をかけると直径10センチの筒には10倍の100の力となって出力されます。

数値に違う部分もあるかもしれませんが、イメージとして覚えておいてください。

よくあるのが建設機械だったり、いちばん身近な存在ではご家庭でも使ってる方がいると思いますが油圧ジャッキですね。

人間の力でも自動車を持ち上げることができます。

今回の記事ではあまり関係ないので、パスカルの原理における油圧ブレーキに関しては別の記事にさせていただきます。

密閉された容器の中でという(パスカルの原理)ことが無視されてる

飯倉さんがMTBのディスク車のリザーバータンク内にあるダイヤフラムの件で『変形したダイヤフラムが戻らない』とおっしゃってますが、この点は間違ってます。

密閉された容器の中で、ディスクパッドの磨耗によって押し出されたピストンの容積分だけリザーバータンク内のオイルが減ります。

同じブレーキの油圧機構を持つ自動車やバイクでは High レベルと Low レベルの間でパッド減少によるオイル量をリザーバータンクで見ることができます。

しかし、自動車やバイクではリザーバータンクは密閉されてません。

なぜか?

横にしないからです。

オートバイは車体を傾けて曲がりますが横にして保管とか、まして逆さにすることはありえませんね。

自動車ももちろんです(笑)

しかし、自転車は横にしたり逆さにしたりします。

このときにリザーバータンク内を密閉状態にしておかないと油圧ラインにエアーが入ります。

つまり、自転車のリザーバータンク内はダイヤフラムを介して密閉状態です。

しかし密閉状態だと油量の変化で内部が負圧になってブレーキの引きシロが徐々にアマくなります。

パッド減少による油量の変化は負圧になるので、それをダイヤフラムの変形によって負圧にならずに密閉状態が保たれます。

10ある油量の2の分が減れば2だけ負圧になるのですがダイヤフラムが2だけ変形してそれを補うわけです。

変形したダイヤフラムは油圧で元に戻る

ディスクパッドの減少によってオイル量は減ります。

その減った量はダイヤフラムの変形で補われます。

減ったダイヤフラムは減る原因になったピストンが外側に飛び出した分を戻してやればダイヤフラムは元の形に戻ります。(油量は変わらないから)

ピストンを戻す油圧でダイヤフラムに内側から油圧がかかるためです。

実際にピストンを戻す部分でマスター内にオイルが吹き出しますよね。

蓋を開けなければあの時点でダイヤフラムは戻ります。

ここで飯倉さんの間違いは、マスターシリンダーのリザーバータンクを先に開けて作業する前提になってることです。

リザーバータンクを開けてしまえは密閉状態ではなくなります。

ピストンを戻してもダイヤフラムに圧はかかりません。

油量は一定なのでその減った部分を補ってるダイヤフラムを外すのは間違ってます。

ピストンを押し戻すときにブリーダーを緩める(外す)こともやってはいけません。

この場合の順序は、ピストンを戻す(ここでダイヤフラムの形状は戻る) → 新品パッドとローターを合わせた厚さのSSTをキャリパーに入れる→ オイル交換をする が正しい。

ピストンを戻す逆からの油圧で柔らかいダイヤフラムが戻らないわけがないです。

飯倉さんの作業で、マスターシリンダー内を満タンにしたあとでダイヤフラムをかぶせ、その後ブリーダー部分からオイルを垂らして満タンにしてますよね。

これも間違いです。

ダイヤフラムをかぶせた時に、ダイヤフラム内にエアーがないはずはありません。

ダイヤフラムをかぶせ、それから本格的にエアー抜き作業をするべきです。

ダイヤフラムの中にエアーがない状態を作るにはミネラルオイルの中で作業する必要があります。
空気中でかぶせれば、必ずどこかにエアーが入ってると疑うべきですね。

ミネラルオイルのピンク色は経年で色が抜けます

赤色ってのはその色を保持するのにめっぽう弱く、すぐに色がくすんだり抜けたりします。

赤い車の色がだんだん抜けるのと同じです。

ミネラルオイルがもともと何から出来てるのかわかりませんが、あの色は着色されたものだとおもいます。

着色したものは時間とともに色が無色になります。

色が抜けることはすなわち劣化ですが、性能に影響するものではないです。

新品オイルにすることでブレーキタッチは変わりますが、古いオイルがすなわち危険であるとは言えません。

ただし、注意しなければいけないのはオイルの沸点が下がることです。

自動車のDOTオイルは吸湿性があるので、空気中の水分を含んでしまいます。

水分を含んだDOTオイルは沸点が下がるのでベーパーロックを起こす可能性があります。

密閉されたミネラルオイルは空気とは触れ合ってないので水分を含まないと思うのが私の考えです。

このミネラルオイルに関しては、どういう性質のものかがわからないので私も正しいことは言えないんですが色が抜けることが危険を伴う劣化とは言えないはずです。

リザーバータンク内の黒いのは・・・

これはシリンダーピストン内のカップが磨耗したものです。

注射器でもゴムのカップがありますよね。

これが動くことによって使ってるうちに少し磨耗します。

磨耗したゴムはオイルに溶けたり残留物になってどこかに溜まります。

浮遊してるものはオイル交換で排出されます。

浮遊しないものは溜まったままですが性能に影響はありません。

油圧ラインをつまらせるようなことはありません。

これは異常ではなく普通のことです。

カップが磨耗して最終的にはオイルが漏れてきますが、耐久性はかなりあるので心配することではありません。

シマノのSTIは分解できないのでオイル漏れすれば交換することになります。

耐久性に関してはまだ未知数ですね。

ちなみに自動車の場合、昔は定期交換部品だったんですが今では定期交換する必要は無いとされてます。

定期交換したほうが良いんですが、精度や材質が向上したおかげで10万キロとか10年とか使っても漏れるようなことはまれです。

ピストン径の小さい自転車のシリンダーの場合、カップにかかる面圧は自動車のとは違うので自動車と同じとはいえませんがダメになったら交換すればいいだけの話なので問題となることはありません。

MTBではなくロードのSTIの構造がわからない問題は正しい

MTBは動画のように見えるので構造は理解できますが、飯倉さんのおっしゃるようにSTIの構造がわからないのは確かに問題かと思います。

ピストンの移動によるによるオイル量の減少による補填をナニでどうやっているのかは最低でも知りたい部分です。

油圧をかける構造は注射器と同じピストン構造なのですでにある知識です。

とは言え、組み付けにおけるエアー抜きの手順を見ても、自動車やバイクと違ってリザーバータンクの無い(あるかも知れない)完全に密閉されたシステムであることは容易に想像できます。

オイルを入れたり抜いたりするブリーダーがSTIにもキャリパーにもある構造です。

車やバイクの場合は、リザーバータンクには空間がありブリーダーニップルはキャリパー側にしかありません。

STIがダイヤフラムを使ってるのか、さらに別室があって減った油量に対する補填ができるのかがわからないですが完全に密閉されてることに間違いはありません。

なので、シマノはこの密閉状態を油量に関係なく保てる構造になってるはずです。

わからないがどうすることもできないから想像するしかない

公開してないので理解できなくてもどうにもなりません。

メーカーが作る構造を、メンテナンスする方法から想像するのもメカの仕事です。

それができるのは経験値であるので、一般のアマチュアにできない部分なんです。

自動車の油圧機構に関してはオーバーホールすることで構造は理解できますが、どの油圧機構も同じピストンとシリンダーを使ってることから大きな違いは無いはずです。

横にしたりひっくり返したりする自転車は密閉状態を保つ必要があると書きました。

つまり、オイル交換をするとかエアー抜きをするとかで気をつけなければいけないのは『密閉』ですから、オイルをシステム全体に対していっぱいにするということです。

難しくはないです。

エアーを抜けばいいだけですから。

オートバイは密閉されてないけどダイヤフラムのようなものがある

オートバイのリザーバータンクには、動画にあるようなゴムシートが必ずついてます。

これは油量に対するものではなく、車体が大きく動くことによる油面の変化を防ぐ目的だと思います。

自動車のタンクの場合は隔壁を作って油面の変化に対応してます。

オートバイの場合は、車体の動きが自動車とは大きく違うので常に一定の油面を維持したいために「油量を多くしたいがリザーバータンクも小さくしたい」と言う相反することをあのようなゴムシートで補って空間を埋めてると私は想像します。

隔壁を作ると移動したオイルが戻ってくるまでに時間がかかります。

戻ってくるまでに違う動きをすればその瞬間油量は減りオイルラインにエアーが入るかもしれません。

見えないものだからメンテナンスが難しいと言うことは無い

システムが見えないからメンテナンスが難しいなんてことはありません。

ABSがついてたりハイブリッドのような擬似ブレーキ(回生ブレーキ)なら難しいと思いますが、自転車はただのオイルラインです。

自動車でもオイルの入り口と出口しか見えません。

自転車と同じです。

リザーバータンクの無いSTIのオイルメンテナンスする場合でも、STIにリザーバータンクを取り付けます。

車やバイクと同じです。

このシステムが見えないから・・・と言っては、自動車整備士は神の目を持ってるとしか思えません。

どんな油圧機構でも見えるのは入り口であるタンクと、出口であるブリーダーニップルにつないだホースから出てくるオイルと気泡だけです。

その出てくるオイルと気泡の状態ですべて判断します。

難しくは無いです。

エアーが出なければOKです。

自転車でもやり方は違っても、エアーは押し出すか浮き上がらせて抜くかしかありません。

エアーは必ず抜けます。

ディスクブレーキはヤバイのか

安全です。

キャリパーブレーキより遥かに安全だと思います。

ディスクブレーキは現代で最新式の構造です。

『てこ』の原理と『パスカルの原理』の歴史でもわかると思います。

いまさら石器時代のてこの原理を使う理由があるでしょうか?

構造がより複雑なのは私はキャリパーブレーキのほうだと思います。

いまだに『ダイレクトマウント』だったり、リンクシステムを変えて強度や引きの軽さを開発してますよね。

たかが30年ほど前はシングルピボットだったものが、強度を確保するためにダブルピボットになりました。

カンパにおいては、ダブルピボットだと剛性がありすぎるので後輪がシングルピボットだったのが数年前です。

引きを軽くするために、シマノの複雑なリンクシステムができたのは9000シリーズからです。

まだ一生懸命開発してるキャリパーブレーキに対して、油圧機構は単純です。

自転車においてこれほど普及しなかったのはSTIに納める技術だったりするでしょうが、フレームなどブレーキ以外が原因であると考えます。

ディスクブレーキ自体で問題になるのはシリンダー径だけです。

STIに納められる大きささえ決まれば、キャリパーなどはどうにでも作れます。

ディスク記事を書き上げたときに詳しく書きますが、自転車で問題になる部分はSTIに入る油圧機構の大きさとフレーム構造だけです。

つまりディスクブレーキこそもっとも安全なブレーキであることは間違いありません。

『ヤバイ』などということはありません。

ワイヤーが切れる可能性のあるキャリパーブレーキのほうがヤバイです。

リンクが磨耗してガタが出るキャリパーブレーキのほうがヤバイです。

雨の日に止まる気配すら見せないキャリパーブレーキは特にヤバイです。

メンテナンスは想像と予測すること

どの分野のメンテナンスでも同じです。

その構造を理解して想像して予測することです。

もっと言えばユーザーの使い方まで想像することです。

ユーザーの使い方以上の付加価値をつけて負担させないこともメカの仕事だとも思います。

特にセラミックBBなんてサイクリングする方には必要無いパーツの代表です。

ここをこうすればこうなる。

そのためにどうすればいいか考えることです。

マニュアルだけでメンテナンスや機会いじりはできません。

図面を見なくても構造を理解し、そのために何をどうすればいいか考えどうなるのかを予測しながら作業するのがメカニックです。

直感に頼って失敗もありますが、それは経験値になります。

さらに想像する力になります。

まとめ

ディスクブレーキを怖がらないでください。

これからはディスクの時代になります。

油圧は決して新しい構造ではありません。

単純な構造なので故障はかなり少ないはずです。

メンテナンスが複雑化するのはフレームへの配管だけだと思います。

飯倉さんはメカとして知識も技術もあるので『ヤバイかもよ』と言いながら技術で何とかするでしょう。

問題は街の自転車屋さんです。

油圧MTBが出たのがまだ新しく、油圧に慣れてないのが問題です。

おそらく、街の自動車修理工場の整備士のほうが知識は豊富です。

飯倉さんが本当に言いたいのは『経験地の少ない自転車屋でこれがいじれるのか?』と言う部分です。

決して機構そのものが『ヤバイ』といってるわけではないです。

単純に受け取ると、ディスクブレーキが危ないように聞こえますがきちんとメンテナンスできない自転車屋に頼ることしかできないユーザーを心配してます。

『私は考えながら仕事をするが、街の自転車屋がそれができるかどうか』とおっしゃってるのがこの動画の全てだと思います。

メカニックの作業手順はそれぞれです。

目的とするのは安全に乗れるものを納車することだけです。

これを見て読んでディスクブレーキに不信感を持ったなら、自動車整備士がいたら聞いてみてください。

油圧ブレーキはやばいのか?と。

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