自動車業界の闇がまたひとつ浮き彫りにされました。
不正車検があったとおもったら、今度は保険金の不正請求です。
任意保険の修理代金を水増しするやり方は何十年前は実際にありました。
ただし、それは保険屋さんもわかっていることで、修理業者も保険屋さんも了解していたことです。
ただし、今回のようなビッグモーターがやってたやり方とはまったく違いますから。
それもずいぶん昔のことで、このようなことはやられてないと思いたいですね。
絶対にやってはいけないことをビッグモーターはやってしまった
今回の水増し請求で自動車に関わる者として絶対にやってはいけないことをビッグモータはやってしまっています。
それは「顧客の車を傷つけること」
顧客の車を預かって、その車を傷つけるなんてことを聞いたことがないのでマジであ然としました。
これは事故を偽装していることにもなるでしょうし、他人の車を傷つければ器物損壊にもなりかねません。
自動車の板金修理においては「水増し請求」のようなことは確かにありました。
ずいぶん昔の話ですけどね。
しかし、傷の無い部分に傷をつけたり、ライト関係を壊して請求するようなことはありません。
ビッグモーターのやっていた不正修理
ビッグモーターからの調査報告書が出されました。
https://www.bigmotor.co.jp/pdf/research-report.pdf
それによると不正は以下のようなものです。
- 事故でついた傷以外に、ヘッドライトを割る、バンパーを押し込んでフェンダーに傷をつけるなど
- 写真撮影の時に、写す角度を変えたりして広範囲に損傷個所があるようにした
- フレームや車体を引っ張って修理するために、牽引用のタワーを使っていないにもかかわらず使っているように偽造した
- 塗装をしたかのような下地を作るために、パテや下地の塗装の偽装をした
- 塗装のコーティングをやったということにして請求をした
- 中古部品を使って修理したにもかかわらず、新品として請求をした
- 本来塗色をボカすために、違う車体の一部を塗装するが、全体を塗装したとして請求をした
不正作業の解説
- 事故でついた傷以外に、ヘッドライトを割る、バンパーを押し込んでフェンダーに傷をつけるなど
これが報道で話題になっている事例ですね。ヘッドライトなどのレンズ部品は交換しなくてもいいものをハンマーで割って部品と工賃を請求するというものです。
バンパーを押し込んでフェンダーに傷をつけて、本来修理する必要のないフェンダー修理も請求するというとんでもない手口。
さらに、ゴルフボールは「雹」の被害に見せかけるための手口だそうです。
雹でボコボコになる傷をゴルフボールで再現したわけですね。
まったく、よく考えるわ。
2. 写真撮影の時に、写す角度を変えたりして広範囲に損傷個所があるようにした
これは板金屋さんがよくやるテクニックなんですが、ビッグモーターとは意図が全く違います。
キズや凹みが小さなものでも、事故でついた傷なら磨くなり叩くなりしてでも修理をします。
しかしその傷や凹みが写真では伝わらないものがあります。
カメラの角度をかえて、光の反射を利用したりして傷をわかりやすく写して保険屋に提出します。
特に「ガラスの飛び石」は写すのが難しかったりするので、マスキングテープなどで印をつけることもよくあります。
ビッグモーターの場合は、それを逆に利用してキズを拡大したり、テープで指示した部分にキズがあるように見せかけていたわけですね。
3. フレームや車体を引っ張って修理するために、牽引用のタワーを使っていないにもかかわらず使っているように偽造した
車は大きな力でぶつかったところを修理するには、大きな力で引っ張り出さなければなりません。
そのために、凹んだところにチェーンをかけて、油圧で動くタワー型のけん引機で引っ張り出します。
大きな工具と、時間がかかる作業なので工賃は高くなります。
同じようなことは「スライドハンマー」という工具で、叩き出すこともできます。
タワー型よりも力は小さくなりますが、工賃は安いですし作業も早いです。
タワー型を使う場合は、大きな力で引き出すので車体を地面に固定しますが、その固定が見るからに甘かったり、チェーンをかける部分がタワーの力では耐えられない場所だったりしていたそうです。
この様子は画像で保管してあったらしく、提出された画像で確認されたようです。
4. 塗装をしたかのような下地を作るために、パテや下地の塗装の偽装をした
塗装をする前に、凹みをパテで埋めて、その上から下地のサフェーサーという塗料を吹き付けます。
サフェーサーの上から本来の塗料を塗るわけですが、サフェーサーやパテを塗ったところを偽装していたようです。
想像ですが、ボディにマスキングテープを貼って、パテやサフェーサーを塗り、その後剥がせば元の色になるので塗装が完了したように偽装したんじゃないかとおもいます。
5. 塗装のコーティングをやったということにして請求をした
高機能塗装(耐スリ)塗装をやったように、空き缶と一緒に撮影して保険金を請求したようです。
高機能塗装の耐スリとは、小さな傷であればコーティングが自然に埋めてくれるというものです。
この塗装の色はクリアなので、塗られているのかを確認することはできません。
確認できないから偽装は簡単。
これは黒い車とかにはかなり有効なコーティングですね。
布などでつく「クロスハッチ」なども、コーティングが自然に直してくれます。
6. 中古部品を使って修理したにもかかわらず、新品として請求をした
実はこれは今でもやっている板金屋さんはあると思います。
ただし、顧客には了解を得てやる場合がほとんどですし、浮いた費用はすべてお客さんのものになっているはずです。
例えば、部品が欠品中で納期が未定とか、1か月後とかになると「中古をつかって早く直すのはどうか?」という提案をします。
それでもお客さんが、やっぱり新品を使ってほしいと言われるのであれば、中古を使うと少し手元に修理代が残るという条件で中古を使わせてもらったりします。
それがダメなら、新品部品を待つということになって、代車代とか修理が長引くことになるわけです。
保険屋さんも案件が長引くのは嫌なので、この部分は黙認する場合もありますね。
ただし、ビッグモーターのように、自分のところの利益のためにやるというのはダメですね。
7. 本来塗色をボカすために、違う車体の一部を塗装するが、全体を塗装したとして請求をした
部分塗装の場合は、どこかで塗色をぼかして色の違いを分からないようにします。
同じ色で塗っても、元色が日焼けしてたりすると塗ったことがわかってしまうので、それが分からないようにボカすわけです。
例えば、フロントフェンダーを塗ると、フェンダーを塗ったことがドアの色との違いから分かってしまいます。
そこで、ドアの半分くらいを塗って、自然に色が変わるようにして新しく塗ったところをわかりにくくします。
ビッグモーターの場合は、こういう場合にドアも塗ってリヤフェンダーまで塗り屋根のアタリでボカすようなことをしていたんじゃないのかと思います。
塗る範囲が広ければ工賃も上がりますからね。
ちなみに、このボカシがあるから塗装は高いんですよ。
ちょっとの塗装でも、けっこう広範囲を塗りますからね。
保険会社をだますようなことは恐ろしくてできない
個人で経営している小さな修理工場では、不正請求なんて今の時代では恐ろしくてできません。
もしバレてしまえば、損害請求されてしまって保険会社との付き合いもすべてできなくなってしまいます。
ビッグモーターのような大きな会社では、小さな修理工場とは保険会社との力関係が違うことからこういう不正ができるのでしょうか。
保険会社としても、自賠責保険とか任意保険の取り扱う金額が大きいから黙認していたのかもしれませんね。
しかしよくこれだけの悪知恵が働くもんだな
顧客の車を預かってしまえば、素人のお客さんをだますなんてカンタンなことなんですけど、普通は良心がとがめてできないですよ。
100歩譲ってパンクの偽装とかあったじゃないですか。
パンク修理だけなら「たった2.000円くらいの売り上げのためによくやるわ」くらいに思ってたら、それもどうやら違っていて【パンク保証】の保険金詐欺だったようですね。
最近よく聞きませんか?
「パンクしたら4本無料で交換します」みたいなヤツ。
あれを偽装して売り上げてたようですね。
さらに、タイヤ組み換えの工賃はお客さんに請求していたらしいですよ。
一本当たり4.000円と普段の2倍だったとか。
タイヤ工賃4.000円って、通販の持ち込みじゃないと普通はもらえない値段です。
いちばんビックリしたのが、サフェーサーの偽装。
サフェーサーって削りやすい塗料だからすぐに落とすことができるんです。
マスキングの上に吹いても、はみ出たものはコンパウンドで磨けばすぐに落とすことができますから、けっこう扱いやすい塗料なんですよね。
この方法は考えもしなかったな~。
保険屋さんが払うからお客さんに被害はないのか?
保険の水増し請求をしていたとしても、修理代は保険会社が払うから顧客に被害はないかというとそうでもありません。
保険会社が支払う修理費用が大きくなれば、契約者全体の保険料が上がる場合もあります。
さらに、車両保険は車種ごとの料率があるので、料率が上がって保険料が高くなる場合もあります。
スポーツカーの車両保険が高いのはそのためです。
さらに、保険を使うと3等級の料率がダウンします。
これを取り戻すには3年かかることになりますし、事故を起こしたということで年間の保険料も上がることになります。
高額修理なら保険を使った方がいいでしょう。
ですが、保険の上昇分とか、等級を取り戻すまでの上がった保険料とを考えると、保険を使わない方が良かったりする場合もあります。
保険に入りたての若い方だと、けっこう高額な保険料になるはずなので20万円とかなら使わない方がいいかもしれません。
保険料の不正請求のために水増しされて、実際は20万円で修理が終わるところを40万円くらいに水増しされていたとしたら、保険の契約者も大きな損害を被ることになります。
こういう相談は、保険を扱っているところで聞くのがいちばんいいんでしょうけど、それがビッグモーターだったとしたら「保険修理しましょう」ってことになるんでしょうけどね。
たぶんもっと被害額が出てくると思う
いまわかっている調査件数は8,427件ほどです。
従業員への聞き取りでは2020年以前から同じような不正請求をやっていたということなのでもっと出てくるはずです。
そのうちわかっているのは1,275件。
一台あたりの水増し額は39,179円ということらしいですが、あくまでもわかっているのがこの数字です。
返金金額の残りが43,335,071円あるということなので、保険会社にこれだけの金額を返金して終わりということにはならないでしょう。
もう保険金詐欺で訴えるくらいのことをすればいいのにと思います。
ビッグモーターがこういうことをやっていれば、自動車業界全体がこういうことをやっているのではないかと思われても仕方ないですから。
ディーラーでも不正車検があったじゃないですか。
「ひょっとして保険の不正請求もしてるんじゃないのか?」って思われても仕方ないですよね。
ビッグモーターは不正車検もあったり
ビッグモーターは保険の不正請求だけではなくて、不正車検もやってたようです。
なんでもスピードメーターの検査をしていなかったとか。
4輪駆動は、スピードメーターテスタにのせる時は、メーターセンサー側でない駆動輪をローラーの上にのせて検査します。
今のテスターは、4輪ともローラーの上にのせてブレーキの検査も兼ねてできる「マルチテスタ」になっているはずですが、ビッグモーターは持っていなかったんでしょうか?
小さい整備工場なら昔ながらの2輪タイプを使っている場合もあるでしょうけど、ディーラーや大きな整備工場ではマルチを入れてる場合がほとんどなんじゃないかな?
それで時間のかかるスピードメータの検査を省略していたらしいです。
指定整備工場での不正車検はよく話題になるようになりました。
トヨタのディーラーでもありましたよね。
もし、不正車検が不安なら「認証工場」の自動車整備工場で車検をやってもらいましょう。
指定工場は国の機関である検査場に行かなくても、工場で車検を終わらせることができます。
認証工場は、整備をしたうえで車検場に車を持ち込んで検査をしてもらいます。
なので不正車検はあり得ません。
ちなみに、私がやっていた代行車検でも認証工場と同じです。
車検場に持ち込むので不正車検などは絶対にありません。
社長は1年間無報酬だとか
今回の不正によって、社長は1年間の無報酬だそうです。
役員は10%~50%を3か月間返上で終わらせるつもりでしょうか。
ノルマを達成できなかった工場長はフロントに降格させられたそうです。
ノルマを達成できなかった従業員は転勤させられたらしいです。
役員は3か月で終わりですよ。
とりあえず、自動車業界の人間と顧客に対して謝れ!
まとめ
保険金の不正請求をしていたビッグモーターですが、かわいそうなのはそれをやらされていた従業員です。
整備士は車好きが多くいるので、顧客の車にキズをつけるのにどれだけ心を痛めていたか。
車にキズをつけることってやろうと思ってもなかなかできなかったりします。
廃車にする車だから・・・といっても、なかなかドアを蹴ることすら躊躇してしまいます。
保険請求だから誰の懐も痛まないと思ってやったことなのでしょうけど、最終的には保険料の値上がりで顧客に返ってくることになります。
車両保険を使えば、車両の等級が上がってしまうことになるので、同じ車に乗っている人すべての保険料が上がります。
業者が勝手にやっていることなので、顧客の知らないところでやられていたというのも許せないですね。
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