車検でお預かりしたダイハツムーブ L550S 。
引き取って帰る時に右前からコトコトと異音がする。
「たいしたことないといいなぁ」と思いながら点検するとロアアームのボールジョイントがダメ。
翌日の車検に間に合うのか?
ロアアームのボールジョイントは単独での交換はできない
ボールジョイントは自動車の足回りでは必ず使われているパーツです。
主な使用箇所は以下
- ロアアーム
- タイロッドエンド
- アッパーアーム(ダブルウィッシュボーン車両)
- ステアリングラックエンド
アッパーアームはダブルウイッシュボーンという足回りの車両で使われています。
多くの車両には、ロアアームとタイロッドエンドとステアリングラックエンドで使用されています。
ずいぶん昔の車両はボールジョイントだけの交換はできていましたが、現代の車ではロアアームごと交換となります。
今回のダイハツムーブのロアアームは10.600円でした。
タイロッドエンドはタイロッドエンドという単独でのパーツが用意されています。
ステアリングラックエンドも同じく単独で部品が用意されています。
ボールジョイントがダメになる原因
ボールジョイントは、ハンドルを動かすことや走行中に段差を超えたりすると動く部品なのでほぼ常に動いています。
そのために、ボールジョイント部分にはグリスが詰められて常に潤滑できる構造になっています。
グリスを詰めてそのままだとグリスが流れ出てしまうので、ボールジョイントにはボールジョイントブーツというゴムで覆われています。
ブーツで覆うことによって、グリスが流れ出ることを防ぎ水の侵入も防いでいます。
ゴム製品は必ず劣化しますよね。
劣化すると破れてしまいます。
破れたとしても初期段階であればグリスの性能でボールジョイントを保護するので大きな問題になることはありません。
そのまま気が付かずに放置しているとグリスが劣化し、さらに砂などが混入すると常にボールジョイントが削られることになります。
削られると今回のようなガタが出ます。
ガタが出ると最終的に外れてしまうことがあるのでかなり危険です。
外れると走行不能になるので、段差などで異音が出たらすぐに点検するようにしてください。
ボールジョイントブーツの交換方法はこちらで解説しています。
ダイハツムーブはエンジンメンバーを下げないと交換できない
交換方法はそれぞれの車両によって違います。
簡単な車両もあれば今回のようにエンジンメンバーを下げないと交換できない車両もあります。
エンジンメンバーを下げるのは少し大がかりな作業になるので作業の様子をご紹介します。
なんとロアアームのリヤ側の取付ボルトが抜けない
ダイハツムーブのこの車両のロアアームのリヤ側のボルトが上から下に向かって取り付けてあります。
ボルトを上に抜く必要があるっわけですが、ボルトの長さだけのスペースが上側にはないわけです。
こうなるとエンジンメンバーを下げないと抜くことはできません。
エンジンメンバーって何?
エンジンメンバーとは、簡単に言うと、エンジンが載っている台でありタイヤを支える足回りの重要な部品です。
エンジンメンバーの上にエンジンが取り付けられています。
エンジンメンバーを下げるということはエンジンそのものも下がってきます。
何かで支えるか、またはエンジンを上から吊り下げないとエンジンは車から外れて落ちてしまいます。
今回は下から支える方法で作業しました。
エンジンメンバーの取付ボルトを外す
ンジンメンバーを下げるために車体にエンジンメンバーを固定しているボルトを外します。
少しずつ緩めていくと、ボルトを外さなくても緩めるだけでボルトの長さ分だけ下がってきます。
取り外すとエンジンが落ちてしまうので、できればボルトを取り外さずに作業ができれば都合外のですが今回はそうはいきませんでした。
取り外します。
ステアリングラックもエンジンメンバーについています。
これがついているとエンジンメンバーは下がりません。
ステアリングでぶら下がる状態になるので、ステアリングラックもエンジンメンバーから切り離します。
ダイハツムーブのエンジンメンバーはボディには4本のボルトで固定されています。
まず1本取り外して、それによってエンジンメンバーが下がってロアアームボルトが外れればいいのですがダメでした。
片側の2本を外す必要があります。
これでエンジンは片側の2本でしかボディに固定されてないので、ボルトは抜けるはずでした。
ですが、まだ足りません。
エンジンメンバーが落ちる可能性があるので、下からミッションジャッキで支えます。
ミッションジャッキはミッションを降ろすときに使うジャッキなので重量物でも支えることができます。
片側のエンジンメンバーの取付ボルトを外します。
とりあえず1本だけ外して様子を見るとなんとかロアアームのボルトを上側に抜くことができました。
ロアアームを新品と交換する
新品ロアアームと交換します。
古いものを外して新品を取り付けます。
この時はまだエンジンメンバーは下がった状態なのでミッションジャッキを外すことはできません。
作業をする側としては、できるだけ早くエンジンメンバーをボディに取り付けたいところです。
ロアアームを取り付け問題のボルトを差し込みます。
この段階でエンジンメンバーを下げる意味はなくなります。
ロアアームのボルトは差し込んだままで作業は後回しです。
先にエンジンが落ちないようにメンバーを取り付けます。
エンジンメンバーのボルトを3本も緩めると位置が少しズレるので位置を合わせながら固定します。
ボルトを締めればエンジンが落ちることは無いので通常の作業ができますね。
ロアアームを取り外した逆の工程で固定すれば完成です。
ロアアームを取り外すとアライメントが狂う
ロアアームは自動車の足回りを支える部品なので、取り外すとアライメントが狂ってしまいます。
今回の車両では主にトーが狂う構造です。
車検でお預かりしているので、この後検査場で検査を受けます。
検査場ではサイドスリップテスタの検査があるので、そのテスタの数値で合わせることにします。
(私の工場にはサイドスリップテスタはありません)
検査場での結果、検査場のサイドスリップテスタでは IN 9.0㎜ との測定結果です。
タイロッドでアウトに約9㎜トーアウトに調整すればOKということですね。
トーとは? 簡単に説明します
自動車のタイヤは進行方向に対して平行にはとりついていません。
必ずトーインまたはトーアウトになっています。
トーインとは、進行方向に対して、左右のタイヤは前側が後ろ側より狭い状態です。
トーアウトはその逆です。
トーとはつま先という意味なので、つま先が開いていればトーアウトで閉じていればトーインだということになるわけです。
今回の9.0㎜は 1m 進むと前輪は内側に9㎜横滑りしていると言ことになります。
常にタイヤを内側に滑らせてしまうので編摩耗したり燃費が悪くなりますね。
【重要ポイント】タイロッド1/2回転で約6㎜動く
これはプライベーターさんでも応用できる数値なので覚えておいて損はない情報です。
ほとんどの乗用車はタイロッドを1/2回転させると約6㎜トーが動きます。
気を付けてほしいのは1/2回転は片側の数値で、タイロッドは片側で動かすことはありません。
ハンドルの切れ角や、直進時のハンドルの位置が変わってしまうからです。
つまり、1/2動かすということは1/2 + 1/2 = 1 なので1回転ということになります。
右1/2 、左1/2 回転で6㎜です。
このことから、左右それぞれ3/4回転回トーアウト側に回します。
これでトーはゼロになるはずです。
【まとめ】
ロアアーム交換そのものは簡単だがそれに伴う作業は難易度は高い
ロアアーム交換は大き目の工具さえあればだれでも可能です。
おそらく難しいといえるのはボールジョイントの取り外しだけなので、難易度はかなり低いと思います。
ですが、今回のように『ボルトが抜けない』とか、『外すためのスペースが無い』となると難易度は上がります。
経験値が特に重要で、どうすれば安全に早く確実な作業ができるのか?という判断をしないといけません。
例えば、ステアリングラックの取り付けを前もって切り離しました。
この作業をエンジンメンバーを外してしまってからでは力が入れにくいのであとからやることは避けるべきです。
外していくパーツがどう動くのか?どういう状態になるのか?というのを想像して事前に作業していくということが大切です。
一つの部品を外すために多くの部品を外すというのはよくあることです。
整備士は常に想像しながら作業しています。
アマチュアの方との差はそれだけです。
特別な技術ではなく経験値の差が、プロとアマチュアの差なんですね。
今回のような作業をアマチュアの方が作業するのは絶対にお勧めしません。
万が一エンジンを元の位置に戻せなくなったらどうしようもない状態になります。
部品交換する場合は、どういうふうに付いていてそのためには何をすべきなのかよく観察してから作業にかかるようにしてください。
できなければプロにまかせましょう。
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