スズキの箱バンのエブリー4WDのクラッチ交換の様子をご覧いただこう。
今ではマニュアルミッション車というものがほぼ絶滅状態で、バンや軽トラ以外でのマニュアル車は絶滅したといっても大げさではない。
唯一マニュアル車として残っているのが貨物車である。
エブリーはFRベース(フロントエンジンリヤ駆動)ベースの4WDなので、クラッチ交換の難易度としては最も簡単な部類に入る。
手のはいらないボルトとか、見えないボルトなどはないので初心者整備士でもできる作業である。
作業の流れやクラッチの画像などをご覧いただければ、クラッチの役割や動作がどういったものか少しは理解していただけるのではないかと思う
ミッションを降ろさないとクラッチ交換はできない
![スズキエブリーのミッション](https://kizna.xyz/wp-content/uploads/2020/03/DSCN4509.jpg)
まずはミッションを降ろす。
整備の基本だからバッテリーのマイナス端子を外すことを忘れずにやらなければいけない。
特にミッションを降ろす場合、セルモーターの配線を外す場合が多い。
セルモーターにはバッテリーから直接電気がきているのでショートさせると大きな作業事故や故障につながる。
これは整備の基本中の基本。
ボディからミッションについている配線やシフトケーブル類はすべて外さなければならない。
うっかり配線を残したままにして作業を進めると、ミッションを降ろすときに切ってしまう可能性があるので特に配線には注意。
ケーブル類が外れたらプロペラシャフトのフランジボルトを外す。
ユニバーサルジョイントにタイヤレバーを入れて回り止めをすれば簡単にゆるめることができる。
4WD なのでトランスファーからフロントデフにつながるプロペラシャフトも外す。
配線・ワイヤーケーブル・プロペラシャフトが外れればミッションをエンジンから切り離す作業に移る。
ミッションマウントのボルトを外すとミッションが下がるので作業がしやすい。
ミッションジャッキでミッションを支えながらエンジンとの取付ボルトとナットをすべて取り外す。
この車両の場合、ナットが2本・ボルトが5本でエンジンと固定されているのですべて取り外す。
この状態ですでにエンジンからミッションを外すことができるので、エンジンとミッションとの隙間にマイナスドライバーを入れ少しコジってやるとミッションはすんなり外れてくれる。 外れることが確認でき、配線など最終的ににもない状態を確認したら、ミッションジャッキの上に安定して乗っていることも確認する。
エンジンからはずれたミッションが、ミッションジャッキの上から落ちてしまうと最悪の結末を迎えるからこの確認はとても大切。
クラッチカバーを外してクラッチディスクを取り外す
![クラッチの構造](https://kizna.xyz/wp-content/uploads/2020/03/DSCN4521.jpg)
クラッチの構造がよくわかるのでよく見てほしい。
クラッチというのは、クラッチディスクをクラッチカバーのスプリング(ダイヤフラムスプリング)で押しつけることでエンジンの駆動をミッションに伝えている。
画像のクラッチカバーの真ん中の方に放射状になっているのがダイヤフラムスプリングだ。
くるくると巻いてあるスプリングではなく、板バネ状となっている。
ちなみに自動車の場合100%【乾式クラッチ】が採用されている。
クラッチディスクが1枚の方式を【乾式単板】で2枚のものを【乾式ツイン】3枚のものを【乾式トリプル】という。
エンジン出力が大きくなるとディスクの枚数が増える。
ディスクの接触面積が枚数分増えることで大きな出力を伝えることができるわけだ。
クラッチを踏むと、レリーズベアリングがクラッチカバーのダイヤフラムスプリングを押してクラッチディスクをフリー状態にする。
クラッチを離すと、ダイヤフラムスプリングは元の状態に戻るので駆動が伝わる状態になる。
これがクラッチの構造。
![クラッチカバーの構造](https://kizna.xyz/wp-content/uploads/2020/03/DSCN4514.jpg)
クラッチカバーを固定している6本のボルトを外してクラッチディスクを取り出す。
【クラッチが滑る】という症状は、クラッチディスクが摩耗するためにおこる現象だ。
まれにダイヤフラムスプリングの故障でクラッチが滑ることもあるが、ほとんどはクラッチディスクの摩耗が原因。
クラッチディスクはディスクブレーキのパッドと同じようなものだと思ってもらえるといい。
使っていれば必ず摩耗する。
クラッチディスクの摩耗には特徴がある。
それは、フライホイール側(エンジン側)よりもクラッチカバー側(ミッション側)の方が先に摩耗するようになっている。
クラッチフェーシング(クラッチディスクの摩材)がフライホイール側とクラッチカバー側ではクラッチカバー側の方が薄く作られている。
![クラッチカバー側が摩耗したフェーシング](https://kizna.xyz/wp-content/uploads/2020/03/DSCN4515.jpg)
これは、フェーシングがリベットで固定されているために、このリベットが露出してしまうと金属同士が接触してキズが入る。
フライホイールに傷が入るよりも先にカバーの方に傷が入るほうが修理代が安くなることを考慮している。
クラッチ交換ではカバーは必ず交換するため、傷が入ったとしても問題はない。
![リベットまで削れたフェーシング](https://kizna.xyz/wp-content/uploads/2020/03/DSCN4516.jpg)
![新品のクラッチディスク](https://kizna.xyz/wp-content/uploads/2020/03/DSCN4517.jpg)
クラッチカバーを組み付けてミッションを載せる
![新品クラッチを組み込む](https://kizna.xyz/wp-content/uploads/2020/03/DSCN4521.jpg)
レリーズベアリングも交換したらいよいよクラッチを取り付けてエンジンとつなぐ作業だ。
![クラッチレリーズベアリング](https://kizna.xyz/wp-content/uploads/2020/03/DSCN4519.jpg)
クラッチディスクとクラッチカバーを取り付ける。
クラッチディスクは必ずセンターを合わせないといけない。
ミッションのシャフトはクラッチカバーにささって、その奥にあるフライホイールのベアリングに入る。
ディスクとベアリングが一直線じゃないとミッションがベアリングには入らない。
これがいわゆる【センターだし】である。
専用工具があるが私は使わない。
目視で合わせることができる。
今まで何百台もやってきたがセンターを外したことはない。
今期もモチロン外さずに一発で決めた(笑)
ボルトを全て取り付ければミッションジャッキを外してもいい。
落ちてくることはない。
配線とケーブル類を取り付ければミッション側の作業は完了。
プロペラシャフトを取り付ける。
プロペラシャフトの取付ボルトは4本。
必ず締め忘れがないようにしなければ、万が一走行中に外れたら大きな事故につながる。
昔に聞いた話だと、走行中にプロペラシャフトが外れて室内に突き刺さってきたらしい。
ほかにはプロペラシャフトが折れて、道路に突き刺さって車が宙に浮いたとかも聞いたことがある。
本当かウソかは分からないが重要な部分なので慎重に作業しなければいけない。
これで作業は終わり。
あとはバッテリーをつないでエンジンをかけて確認すればクラッチ交換の完成。
まとめ
クラッチ交換の作業は過去には結構な数があった。
オートマチックが主流になり今では乗用車の整備では本当に絶滅状態の作業になってしまっている。
小型から大型トラックなどはまだマニュアル車が多いが、私ができる作業ではない。
このクラスもそのうちにオートマチックが主流になるはず。
いや、もうなってるのかもしれない。
マニュアル車が減った理由の一つに【免許制度】がある。
オートマチック限定免許を取ったら、マニュアル車に乗る資格がない。
そもそもマニュアル車に乗る必要がないからオートマチック車限定免許を取るのだが・・・。
コメント