フィアット500のクラッチペダルが戻らないという修理依頼がありました。
クラッチマスターからギシギシという音も出ていたので、てっきりマスターが原因と思っていたのですが、交換してみるとレリーズシリンダーが原因だったようです。
クラッチマスターを交換するときは、ちょっとしたコツがあります。
それを知らずに作業すると、エアーが抜けずに時間とブレーキオイルを無駄にします。
この記事を読めば、エアー抜きが確実にできるようになります。
ぜひ参考になさってください。
マスターシリンダーは呼びオイルが必要
クラッチマスターを交換した時は「呼びオイル」をしないとうまくエアーが抜けません。
古いマスターを外して、新しいマスターシリンダーに付け替えるだけで、エアー抜きはできません。
マスターシリンダーにエアーが噛んでしまっていると、オイルを入れてもエアーしか送らなくなります。
それを防ぐために「呼びオイル」を入れてやります。
マスターの中をブレーキオイルで満たすのが「呼びオイル」。
井戸水を汲み上げるポンプを使ったことがある方ならわかると思います。
いくらレバーを漕いでも、水が上がってこないことがあります。
ポンプにエアーが入ってしまっているんですね。
そんな時は、ポンプに呼び水を入れてやると組み上げることができます。
それと同じです。
まぁ、今は手漕ぎのポンプを使った井戸がないのでほとんどの方は知らないですよね。
マスターシリンダーは、オイルで満たしておかないとエアーしか送らないことを覚えておいてください。
ブレーキのマスターシリンダーも同じです。
フィアット500のマスターシリンダーはオイルタンクが別になっている
一般的なクラッチマスターはオイルタンクと一体になっています。
ところが、フィアット500はタンクがブレーキオイルと共有なんですね。
狭いエンジンルームのスペースの関係なのでしょう。
ブレーキのタンクからはパイプでつながっているので、自然にオイルがマスターに入っていくことは無さそうな構造です。
取り付け前にマスターにオイルを入れて、きちんとオイルを送ることを確認したにもかかわらずエアーしか送りません。
取り付けの時にエアーが入ったのでしょう。
「エアーが噛んでる」
あ~~~、面倒なことになりそう。
どうしましょ。
取り付けた状態でマスターにオイルだけを入れるのは、奥まった場所なので難しいです。
注射器のようなものでオイルを送ろうかと思ったのですが、パイプを外したくないです。
CLIC-R のホースバンドがせまいところにあるのでやりにくい。
こういうときに活躍する工具があります。
エアーでブレーキオイルを引き抜くことができる工具が・・・。
エアーが必要だったりしますが、この方法がいちばん手っ取り早くて簡単です。
ブレーキオイル交換が一人でできる?
エアーを使って、ブレーキオイルを吸い取るというとても便利な工具があります。
これをレリーズシリンダーのエアー抜きのニップルに取り付けて、エアーを送ると負圧でブレーキオイルを抜くことができます。
マスターにエアーが噛んでしまっていても、強制的に引き抜けばマスターにオイルを満たすことができます。
ということで使ってみました。
レリーズシリンダーに取り付けてエアーを送ると、ブレーキオイルが抜けてきます。
少し抜いて取り外し、ニップルを締めてクラッチペダルを踏むと、しっかりした踏み心地になっています。
マスターシリンダーのエアーが抜けたようです。
こういった工具も安くなっているので持っておいてもいいと思います。
エアーが必要なので、コンプレッサーがないと使えないですが、手でポンプを動かして吸い取るものもあります。
オイルを通した後で、普通にエアー抜きをすれば完成です。
フィアット500のパイプはクリップで止まってるだけ
フィアットのクラッチラインのオイルパイプは、差し込んでクリップで止まっているだけです。
小さなマイナスドライバーかピックのようなものを差し込めばクリップは抜けます。
パイプは差し込んであるだけですが、引っぱるとパイプを傷めるので慎重に引き抜かなければなりません。
取り付ける時は先端にシリコングリスを少し塗って差し込み、クリップをつけて完成です。
パイプの差し込みがあまいとクリップが入らない構造になっているので、クリップが差し込めれば取り付けミスというのはないはずです。
クラッチレリーズシリンダーが固着
取り外したレリーズシリンダーとマスターシリンダーを分解してみました。
分解してわかったのは異常があったのは、クラッチレリーズシリンダーの方でした。
レリーズシリンダーはピストンの戻りが悪く、ある位置で固着してしまいます。
抜くのにもかなり苦労するくらいの固着です。
クラッチカバーのダイヤフラムスプリングで押し戻せないほどではないと思うのですが…。
スムーズに動く部分なのに動きにくいというのはあきらかに異常です。
これが『クラッチペダルが戻らない』原因ですね。
部品の価格
クラッチマスターシリンダー | 11.700円 |
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クラッチレリーズシリンダー | 12.600円 |
価格は国産のものと大差ないですね。
グリスの質が原因なのか?
自動車整備を40年やってきて、グリスの劣化くらいは触るとわかるようになります。
今回のフィアットに組んであったシリンダーのグリスは、潤滑性能がかなり落ちている印象があります。
6年落ちの車なので、国産だとまだグリスはグリスらしい潤滑性能を感じますが、そういったのが無いんですよね。
もちろん私の印象ですよ。
なんとなくそう感じるんですよね。
そこで、いったん分解したシリンダーを組みなおしてみました。
使うグリスは『ワコーズ ラバーグリス』です。
ブレーキやクラッチのピストンなどの潤滑で使うグリスです。
結果、正常な動きに戻ることはありませんでした。
マスターの方の異音は消えましたが、レリーズの方は固着したまま。
やはり一度シリンダーに傷がついているので、グリスを変えてもどうにもなりませんね。
グリスの耐久性が原因だとしたら、新品の時にオーバーホールして、国産グリスと入れ換える方がいいのかもしれません。
グリスもその国にあったものが使われていたりするのかもしれませんし。
日本の気候や使い方の違いかも
グリスだけが原因というわけでもありません。
日本における使い方と、外国での使い方の違いもあります。
気候の違いもあるでしょう。
夏暑く、冬は寒い。
梅雨時の湿度も高いので、グリスや油脂類、製品の材質などへの影響もあるかもしれません。
使い方も、日本のような渋滞があるのか?とか、一度に走る距離はどうなのか?とか、使う環境の違いもあります。
クラッチ系へのダメージも
この車両はクラッチのオーバーホールをしています。
レリーズベアリングがバラバラになって、クラッチが切れなくなったからです。
クラッチをオーバーホールする前から、もしレリーズが固着ぎみだったとすると、半クラッチの時間が長くなります。
それがレリーズベアリングの故障につながったということも考えられます。
レリーズシリンダーの固着がレリーズベアリングの故障につながったとしたならば、早めにレリーズシリンダーを交換していればクラッチトラブルもなかったのかと思います。
分解したものを組みなおしてみました
原因を見つけるために分解したものを組みなおしてみました。
クラッチマスターの方は、リターンスプリングが入っていない構造なので、動きが悪くなっています。
スプリングが入っていれば、もう少し軽く動くはずですが、どうしてもギシギシと言うような動きをします。
レリーズの方は、シリンダーに大きくキズが入っているので、ワコーズの「ラバーグリス」を塗りたくっても固着してしまいます。
フィアット500 まとめ
クラッチが戻らないという症状で入庫したフィアット500は油圧系統の交換で直りました。
レリーズシリンダーの固着が原因です。
国産のマニュアル車では、シリンダーの固着でクラッチが切れなくなるということは経験がありません。
それよりもオイル漏れで油圧がかからずにクラッチが切れなくなるということの方が多いです。
オイル漏れは定期的に点検していれば見つけることができますが、固着はなかなか発見が難しいです。
ペダルに違和感があれば、すぐに点検をして「予防整備」として交換してもらってください。
部品がすぐに手に入らない外車はとくに修理に時間がかかったりします。
国産が予防整備をしなくていいということではありませんが、外車は特に予防整備は大切ですよ。
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